2017/08/09

絵で見るキリストの生涯

ベラスケス、キリストの磔、プラド美術館

Ciao!

前回は宗教画の歴史をさくっと紹介したけど、今回はイエス・キリストその人の生涯を絵画で追っていくよ。

宗教画の歴史

イエス・キリストは宗教画では一番多く描かれているテーマだから、同じ場面がいろんな画家によって描かれてるんだ。今回は、特に人気のシーンを巨匠たちの作品で紹介するよ。



  1. 降誕~エジプトへの避難
  2. 幼少期~洗礼
  3. 弟子の獲得、布教、奇跡
  4. 最後の晩餐と祈り
  5. 処刑と復活
  6. 最後の審判



1.降誕~エジプトへの避難

キリスト降誕の年は、ヘテロ王統治下で大規模な人口調査のあった年とされているよ。現在では、紀元前4年頃に生まれたって説が有力みたい。

人口調査のためにみんなが一斉に出身地に帰ろうしたから、街も宿屋も大混乱。マリア様とヨセフさんは宿も取れず、ベツレヘムの厩で一夜を明かしたんだ。この時に生まれたのがイエス様。


ギルランダイオ、キリストの降誕、聖トリニータ教会
ギルランダイオ、キリストの降誕、聖トリニータ教会


中村光先生、聖☆おにいさん、10巻より
中村光先生、聖☆おにいさん、10巻より
マリア様の気持ち

厩の住人として出てくる動物は、だいたい牛とロバ。天使か3人の羊飼いがお祝いに駆けつけていることが多いよ。上の絵では奥に東方三博士が見えてるね。

キリストの誕生直後、占星術でそれを知った賢人たちが厩にやってきたシーンが東方三博士の礼拝。


ボッティチェリ、東方三博士の礼拝、ウフィツィ美術館
ボッティチェリ、東方三博士の礼拝、ウフィツィ美術館


中村光先生、聖☆おにいさん、10巻より
中村光先生、聖☆おにいさん、10巻より

グローバル感を出すために、賢人をヨーロッパ人、アジア人、黒人に描き分けることもあるよ。

三博士たちが帰った後、ヨセフは妻子とともにエジプトを目指す。なんでも、危機が迫っていると天使から夢のお告げがあったんだって。


カラッチ、エジプトへの避難、ドーリア・パンフィーリ美術館
カラッチ、エジプトへの避難、ドーリア・パンフィーリ美術館

この場面では、聖家族とロバが大自然の中を旅する様子が描かれるよ。画家にとって旅の様子は、風景画を描く格好の機会だったんだ。


さて、彼らが去った後のヘテロ王の国では、嬰児の大虐殺が起きていた。ユダヤの王が生まれるという予言を聞いたヘテロ王が、赤ちゃんを片っ端から殺して回ったんだ。

ルーベンス、幼児虐殺、アルテ・ピナコテーク
ルーベンス、幼児虐殺、アルテ・ピナコテーク

この主題では、登場人物の描き分けが画家の腕の見せ所。生きている赤ちゃんと殺されてしまった赤ちゃん、逃げ惑う華奢な母親と、それを追う屈強な兵士という対比が画家のチャレンジ精神を刺激したんだ。



2.幼少期~洗礼

マリア様が幼少期のイエス様と戯れたり、あやしたりっていう聖母子の肖像はルネサンス期の人気のテーマ。僕もたくさん注文を受けたよ。

大公の聖母by僕、パラティーナ美術館
大公の聖母by僕、パラティーナ美術館

後にイエス様を洗礼することになる洗礼者ヨハネは、彼の親せきっていう設定だから、聖母子の絵にヨハネさんが登場することも多いよ。

ひわの聖母by僕、ウフィツィ美術館
ひわの聖母by僕、ウフィツィ美術館

あ、この辺りの事はエジプトの避難とは別の次元でとらえられてる話だから、エジプトに逃げて大変な時に随分のんきに子供と遊んでるなぁなんて思わないでね。

さて、キリスト教が成立したのは、あくまでイエス様が死んだ後のこと。生前の彼はユダヤ教徒だったんだ。ということで彼はまずは、ユダヤ教のしきたりに従って洗礼。この時の洗礼者がヨハネさん。



ヴェロッキオ、キリストの洗礼、ウフィツィ美術館
ヴェロッキオ、キリストの洗礼、ウフィツィ美術館

上の絵の左側で横顔を見せている天使は、当時ヴェロッキオさんの工房で修行中だったダ・ヴィンチさんが担当したんだよ。そのほか、キリストの足元の水面や背景の一部も描いたんだって。

3.弟子の獲得、布教、奇跡

洗礼を受けたキリストは、宗教家として活動を始める。その過程で、弟子たちとも出会うんだ。


カラヴァッジョ、聖ペテロと聖アンデレの召命、ロイヤルコレクション
カラヴァッジョ、聖ペテロと聖アンデレの召命、ロイヤルコレクション

ペテロさんとアンデレさんは漁師をしていたところをスカウトされたよ。

こちらは、布教先でお世話になった民家での一コマ。


フェルメール、マリアとマルタの家のキリスト スコティッシュ・ナショナル・ギャラリー
フェルメール、マリアとマルタの家のキリスト
スコティッシュ・ナショナル・ギャラリー

キリストを迎えるために忙しく食事の支度をする姉マルタに対して、妹マリアのようにゆっくり説教を聞きなさいと説くキリスト。ご飯よりも、自分の話を聞いてほしかったんだね。

カナの婚宴という主題も、キリストの奇跡に関連した人気のシーン。結婚式に呼ばれたキリストは、途中でワインがないことに気づく。すくっと立ち上がると、ズボンを下げてジョンジョロ、ジョンジョロとワイン樽に小便を・・・

じゃなかった。奇跡で追加のワインを作り出した、ってお話。

パオロ・ヴェロネーゼ、カナの婚宴、ルーブル美術館
パオロ・ヴェロネーゼ、カナの婚宴、ルーブル美術館
中村光先生、聖☆おにいさん、10巻より
この能力のおかげで、聖家族は酒代いらず



4.最後の晩餐と祈り

自分の最期を悟ったキリストが、そのことを弟子たちに打ち明けるのがあの「最後の晩餐」のシーン。


ダ・ヴィンチ、最後の晩餐、S・M・デッレ・グラツィエ教会
ダ・ヴィンチ、最後の晩餐、S・M・デッレ・グラツィエ教会

「この中に裏切り者がいる(`・ω・´)キリッ」との告白に、食卓がざわめく。

食後に、祈りをささげるために外へ出たキリストに三人の弟子が付き従う。キリストは、近くで起きて待っててねと告げるんだけど、弟子は三人ともそろって爆睡しちゃうっていうシーン。


ベッリーニ、ゲッセマネの祈り、ナショナル・ギャラリー・ロンドン
ベッリーニ、ゲッセマネの祈り、ナショナル・ギャラリー・ロンドン

仕方がないので、一人っきりで神の使いと対話するキリストの背中が悲しい。


5.処刑

キリストの生涯の中で一番劇的に描かれるのはキリストの処刑シーン。キリストが地上に遣わされたのは、その命を以て人間の罪をあがなうというミッションがあったから。

だから、このシーンはキリスト教徒にとってとても重要な意味を持つんだ。

処刑場のあるゴルゴタの丘まで、自分の十字架を背負って歩かされるキリスト。


ボス、十字架を担うキリスト、ヘント市立美術館
ボス、十字架を担うキリスト、ヘント美術館


駆けつけた聖母が失神している姿も良く描かれるし、上の絵では、キリストに汗を拭くように布を渡した聖ベロニカが描かれているね(左下)。同じ日に処刑が執行された、2人の罪人も描かれているよ(右の上下)。

いよいよ、丘での処刑執行。磔にされたキリストは、最後にロンギヌスに槍で胸を一突きされたとされてるよ。



ルーベンス、磔のキリストと2人の盗人
ルーベンス、磔のキリストと2人の盗人

このシーンでは、聖母は磔を直視できずにいるか、失神した姿で描かれることが多い。そして、色々な時代の聖人たちが磔を見守ってるのが常なんだ。(このへんのからくりはまた今度)

親族や弟子たちによって遺体を引き取られたキリストは、墓に葬られるんだけど、ここで終わりじゃないのがキリストが神の子たるゆえん。当たり前のように復活するよ。


ピエロ・デラ・フランチェスカ、復活、チヴィコ美術館
ピエロ・デラ・フランチェスカ、復活、チヴィコ美術館

前で寝ているのは見張りのローマ兵。復活を目の当たりにして、びっくりしてるバージョンもあるよ。

人間の罪を自らの命であがなうという使命は果たしたから,
これにてMission accomplished!

セカンドライフは天上でということで、天に帰っていきます。

ペルジーノ、キリストの昇天、リヨン美術館
ペルジーノ、キリストの昇天、リヨン美術館

さて、これまでの話は(史実かどうかは別として)全て過去の話。そしてこれからのことは未来の話だよ。


6.最後の審判

今後起こるだろうとされているのは最後の審判。7つのラッパが鳴り響くと始まるキリスト主催の裁判だよ。今まで亡くなった人が一旦よみがえり、天国行きか地獄行かを決められるの。

ミケランジェロ、最後の審判、システィーナ礼拝堂
ミケランジェロ、最後の審判、システィーナ礼拝堂

地獄行の人は悪魔に、天国行きの人は天使に導かれて行く様子を、キリストや歴代の聖人たちが天から見てるっていうのがよくある構図だよ。

さて、こんな感じで、キリストの生涯はおしまい!楽しんでくれたかな?

それじゃあまたね。Ciao!

【参考文献】

一話完結だから、1巻から買わなくても面白いよ~

2017/08/08

宗教画の歴史

Ciao!

みんな、宗教画って好き?僕は大好きなんだけど、人によっては、宗教画は古臭くて嫌いって人もいるんじゃないかな?

確かに、宗教画は西洋絵画の中でも歴史の長い分野だから、その中で生まれたルールや元ネタを知らないとわかりにくいってところはあるけど、逆に言えば、そこさえ押さえておけば決して近づきがたい物じゃないよ。

歴史が長いからこそ、その進化の過程を見れるっていう楽しみもあるしね。

ということで、今回は宗教画についてその歴史とバロックまでの時代ごとのトレンドを見ていこう!

目次
1.絵画界の王様、宗教画
2.宗教画の始まりと発展
3.中世の宗教画
4.ルネサンスからバロックの宗教画

1.絵画界の王様、宗教画

西洋画で宗教画といえば、もちろんキリスト教に関連する絵画だよ。

西洋絵画には古代ギリシャの神話をモチーフにしたものも有るけど、それは「神話画」と呼ばれるのが一般的だから、宗教画といえばあくまでキリスト教画。

この宗教画と神話画はルネサンス以降、19世紀まで続く西洋画の二大ジャンルで、合わせて歴史画とも呼ばれているよ。実際の歴史的場面を取り扱ったものも含まれてるけど、量では宗教画と神話画が圧倒的に多いんだ。

歴史画は、西洋絵画の中でも高位のジャンルとされているから、それを描く画家たちの力の入れようも凄かったんだよ。いっぱしの歴史画が描けてこそ一流の画家って時代が長かったからね。



2.宗教画の始まりと発展

キリスト教美術の始まりは、2世紀後半から3世紀の初めごろに遡るよ。キリスト教はユダヤ教の流れを引き継いで、偶像崇拝を禁じてたけど、間接的・暗示的な形で信仰の対象が絵や像に現れ始めたんだ。これが初期キリスト教美術と呼ばれる時代。

よき羊飼い(300年頃)、バチカン美術館
男性はキリストを、羊は信者を暗示してるよ

330年にローマ帝国の帝都がコンスタンティノープルに移されたことで、文化の中心も東へと移ったんだ。その結果、ヘレニズム文化やペルシアなど東方の国々の影響が入り込んだ美術様式をビザンティン美術というよ。

ビザンティン美術はその後1000年以上に渡って、教会との深い関連の中で連綿と受け継がれていくことになる。


キリストのモザイク(部分。12世紀)、アヤソフィア

さて、476年に西ローマ帝国が滅ぼされると、その地域にゲルマン人の文化が入り込んできた。

ただし、ゲルマン人の作ったフランク王国や神聖ローマ帝国でも絵のトレンドは基本的にはビザンティン様式。これらの国は、ローマ文化の後継者という自負があったから、ローマ文化を尊重したんだ。


ケルズの書(800年頃)、トリニティカレッジ図書館
フランク王国、メロヴィング朝時代の写本装飾
北方文化であるケルトの影響がみられる



3.中世の宗教画

中世の美術というと、ロマネスク様式とゴシック様式。名前くらいは聞いたことがあるって人が多いんじゃないかな?どちらももとは建築様式を指す言葉だよ。

ロマネスク美術は絵画や彫像ではビザンティン美術の影響を色濃く残すものの、写本の装飾では、新たな境地に至ったんだ


The Morgan Leaf(1160-1175), Winchester

現存する最も古いステンドグラスもこの時代のものだよ。


ダヴィデ王(11世紀か?)、Augsburg Cathedral

ロマネスクの頃の絵は、人里離れた場所にある修道院で、ひとつの絵を参考に同じものを何度も描くことも多かったんだって。きっと写経に近い感じだったんだろうね。

さて、ゴシック美術の時代になると、絵画はより写実的な表現を求め始める。人物の表情はより人間らしく、場面表現はより物語性を帯びてきた。とはいえ、まだまだビザンティンの残り香が感じられるよね。


デゥッチョ、玉座の聖母子と6天使(1285頃)、ウフィツィ美術館
奥行き感の欠如、聖母の大きさを極端に強調するなど
古き良き時代の表現方法は健在。


ジョット、オグニサンティの聖母(1310)、ウフィツィ美術館
立体感も出たし、表情も姿勢も柔らかくはなったけど、
まだルネサンス以降の絵画とは違う印象が漂う

建築も飛躍的な進化を見せ、広い室内空間には大きな窓を作れるようになり、ステンドグラスも豪華になったよ。


ケルン大聖堂のステンドグラス(1300年頃)

このころから美術の享受者のすそ野が、王侯貴族、教会関係者だけでなく、都市の富裕層や知識人にまで広がるんだ。

 

4.ルネサンス以降の宗教画

ルネサンス以降の宗教画は、教義の伝播だけでなく、装飾性やドラマ性も大切にされるようになっていったんだよ。主題にになじみがなくても、パッと見てすごいな~と思う作品が増えてくるのもここから。

このころから、絵は街の画家によって描かれ始める。ルネサンスの初期までは絵のうまいお坊さんが描いてる場合も多いけどね。

時代ごとに見ていくと、ルネサンス初期


フラ・アンジェリコ(1430、受胎告知、プラド美術館
フラは英語でいうところの「ブラザー」。修道士の肩書の一つ。

ルネサンス盛期
美しき庭師(1507)By僕、ルーブル美術館
写実性は写真級でしょ?
さらに柔らかさと温かみも感じるでしょ?
ね?ね?

マニエリスム


パルミジャニーノ、首の長い聖母(1540頃)、ウフィツィ美術館
様式化は感じるものの、ビザンティンの様式美とは全く違うね

バロック


カラヴァッジョ、ゴリアテの首を持つダヴィデ(1606頃)
ボルゲーゼ美術館
バロックは特にドラマ性重視の時代

などなど。

ルネサンスを境に人々の価値観が大きく変わり、宗教画に求められるものも変わった。

現実離れした荘厳さよりも、写実的な技巧でみんなをうっとりさせたり、エンターテーメント性あふれるドラマチックな場面展開のある絵に人気が出たんだ。


さてと、こんなところでキリスト教美術の始まりからバロックまでの変化を一通り感じてもらえたかな?それでは今回はここまで。

Ciao!